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ジベレリンと休眠打破

ジベレリンとは植物ホルモンの総称で、生長軸の方向への細胞伸長を促進させたり、種子の発芽促進や休眠打破の促進、老化の抑制といった効力があります。 以前から種の発芽促進やチューリップ等の球根の休眠打破に使用されていることは知っていましたので、種子や球根の休眠打破ができるのであれば、熱帯スイレンのバルブの休眠打破ができないものかと考えていました。

今年(2010年)は春先の天候不順で気温が上がらずいつまでも寒い日が続きました。 その影響か、熱帯スイレンの成長が思わしくなく、いつまでも水中葉だけという状態が続いているものも少なくありませんでした。 中でもオーストラリア原種のN.Giganteaを初めとするAnecphya種は深い水深を好み、環境が良くないと休眠してしまう気むずかしい性質があります。 Berry's Water Garden ではNymphaea gigantea(ギガンテア)とNymphaea gigantea var.neorosea(ネオロゼア)、そしてNymphaea immutabilis subsp.immutabilis(イムタビリス)の3品種を栽培していますが、 四月の終りにヒーター入りの水鉢にはギガンティアとネオロゼア、無加温水鉢にはイムタビリスを植付けて入れておいたところ、 ギガンティアは順調に水上葉を水面に伸ばして成長しているのに比べ、ネオロゼアとイムタビリスだけは植付け54日を過ぎても小さな水中葉だけで根も出ていない状態でした。

ジベレリンには休眠打破の効果があることを前から知っていましたので、たまたま、種なしブドウ用に使うはずだったジベレリンが余り冷蔵庫で保管していたものがあったので、ネオロゼアとイムタビリスに使ってみることにしました。

ジベレリンの使用方法には熱帯スイレン用の記載などあるわけもなく、説明書きの種子や球根の浸漬濃度を参考に(球根が50ppm)とりあえず同じ50ppmで作成してみました。

ネオロゼアとイムタビリスを鉢から抜いてみたところ両品種とも全く根が出ておらず、バルブから水中葉が少し伸びているだけで植付け時とほぼ同じ状態でした。 ジベレリンの使用方法ですが、広口ガラス瓶にバルブを入れて50ppmのジベレリン溶液を入れ30分そのままにしておきます。浸け終ったら広口ガラス瓶にバルブを入れて用土と重りの代わりに小粒の寒水石を入れます。 (用土を作って植付けるより寒水石の方が何故か太い根が出ます。) この状態でらんちゅう水槽に沈めておいたところ1週間で水上葉を出して発根も見られるようになりました。そうなることを期待していたとはいえ、これほど効果があるとは思ってもみませんでしたので正直驚いています。

ジベレリンが少し余ったので、冬越しして目覚めていない熱帯スイレンのバルブをいくつか浸けて様子を見ましたが、こちらは残念ながら発芽したものはありませんでした。 熱帯スイレンのバルブはチューリップ球根等とは構造自体が異なっているからのようで、効果があるのは少しでも発芽して芽が形成されているものに限定されるようです。

オーストラリア品種はバルブから一芽だけ発芽していましたので、うまく成長促進させることができましたが、複数の成長点ができる他の昼咲熱帯スイレンでも同じような効果があるかどうか実験してみることにしました。 実験したのは、ハワイから手荷物で持ち帰った「N.Rachel Presnell」です。輸入後らんちゅう水槽で栽培していました。 輸入時についていた水上葉は既に枯れてしまい、それに代わる新しい水上葉が出ずに水中葉だけになっていました。鉢からバルブを掘り上げて確認したところ、根も枯れて休眠状態になっていました。 そこで、オーストラリアスイレンの休眠打破に成功したジベレリン処理を行い、50ppmのジベレリン溶液に浸けてみたところ こちらの方も急速に水上葉を展開しはじめました。

これらの結果から発芽しているバルブであればジベレリン処理を行うと芽だしや水上葉の展開に非常に効果があることが分かりましたが、反対に芽が出ていない場合では休眠打破の効果はほとんど認められませんでした。
これからも実験は引き続き行っていきますが、次はムカゴ苗でも効果があるのか検証してみたいと思います。

2011年春 ほぼ結果が出ました。 越冬させて芽が出ていないバルブに対してはジベレリンの目覚め効果はほとんどありません。 また、ムカゴ苗や既に目覚めている株に対しても現状では効果は認められませんでした。 ジベレリンの効果が出るのはバルブがあって小さな葉や芽が出ているにもかかわらず根が出ていない休眠状態の株に対してジベレリン処理をすることによって目覚め成長が促進されます。

オーストラリアスイレン篇 ( N.immutabilis subsp. immutabilis,N.gigantea var. neorosea )
NO.01020304
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Befor

ジベレリン明治 休眠バルブのジベレリン処理 広口瓶 寒水石に植付け
内容

明治のジベレリンです。1袋にジベレリンが50mg含まれています。これ一袋を1gの水で薄めると50ppmの溶液ができます。

2010年6月13日

掘り上げたネオロゼアとイムタビリスのバルブを50ppmのジベレリン溶液に30分浸漬します。

浸漬したバルブを広口瓶に移します。

バルブが倒れないようバルブの周りに重し代わりの寒水石を入れてバルブを固定します。

NO.05060708
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After

休眠バルブの目覚め 鉢への植え付け 浮葉の成長 ネオロゼアの開花
内容

ジベレリン処理から約1週間後の様子、ネオロゼアの浮葉が伸びて発根しています。

浮葉が成長して、新しい根が出だしたので用土に植え込み、水瓶に沈めました。

ジベレリン処理から約1ヶ月後の様子、本葉が展開し始めました。既に蕾が見られます。

7月23日

ジベレリン処理から40日、ネオロゼアが開花しました。

NO.09101112
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After

イムタビリスの目覚め 鉢への植付け 浮葉の成長 イムタビリスの開花
内容

ジベレリン処理から約1週間後の様子、イムタビリスの浮葉が伸びて発根しています。

浮葉が成長して、新しい根が出だしたので用土に植え込み、水瓶に沈めました。

ジベレリン処理から約40日後の様子、本葉が展開し始めました。

7月31日

ジベレリン処理から48日、イムタビリスが開花しました。


事務所栽培篇 ( N.gigantea var. neorosea )
NO.13141516
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After

会社用ネオロゼア 休眠バルブ ジベレリン処理 休眠バルブの目覚め
内容

会社にて栽培しているネオロゼア2鉢も全く成長の兆しすらありません。

鉢から掘り出して確認したところ全く成長してませんでした。

プラコップに50ppmのジベレリン溶液を作り30分浸漬

バルブ浸漬から約1週間後の様子。浮葉が展開し始めました。

NO.17181920
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After

浮葉の成長 ネオロゼアの開花    
内容

ネオロゼアの浮葉(本葉)が出てきました。

8月2日

蕾が株元に顔を出し始めました。開花まであと2-3週間でしょうか?

   

熱帯スイレン篇 ( N.Rachel Presnell )
NO.21222324
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After

休眠状態の「N.Rachel Presnell」 ジベレリン処理 休眠バルブの目覚め 徒長した浮葉
内容

7月26日にハワイから持ち帰ってきた「N.Rachel Presnell」ですが浮葉が全てなくなってしまい、水中葉だけになってしまいました。 輸入後1ヶ月経ちましたが浮葉が出る兆候もなく、バルブを掘り出してみたところ根も無くなり休眠モードに入っているようです。広口瓶に移して寒水石を入れてバルブを固定しました。

冷蔵庫に保管していた50ppmのジベレリン溶液を広口瓶に注いでバルブを30分間浸漬しました。

ジベレリン処理から1週間経ち、浮葉が5本現れ、発根も確認することができました。

広口瓶からバルブを取り出して植え替えの準備

NO.25262728
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After

鉢に植付け 浮葉の成長 開花  
内容

成長しだした「N.Rachel Presnell」を新しい鉢に植え直しました。

現在観察中

   

茎葉散布篇
NO.29303132
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After

茎葉散布1 茎葉散布2 after  
内容

上記熱帯スイレン篇で使ったジベレリン溶液の残りを、らんちゅう水槽組に投与、鉢を水から出して株元に50ppmのジベレリン溶液を縁いっぱいになるまで注ぎました。

株全体をジベレリン溶液に浸けてないので効果の程は不明、今後要観察

 

ムカゴ苗 ( N.Araluen )
NO.33343536
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After

ムカゴ苗 ジベレリン処理 浮葉の成長 after
内容

N.Araluen

水中葉のままで浮葉がでてきていません。

鉢から掘り上げて確認したところ発根はしていますが新しいバルブは未だできていません。洗浄してジベレリン50ppm溶液に30分浸漬しました。

60型カラーポットカバーに寒水石を入れて株を植え込みました。(寒水石は株が浮き上がらないよう重しを兼ねています。)

ムカゴ苗にはほとんど(全く)効果はありませんでした。


ムカゴ苗 ( N.Golden West,紫式部 )
NO.37383940
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After

N.Golden West+紫式部 ジベレリン処理 after after
内容

N.Golden West

紫式部

N.Golden Westは水中葉のままで浮葉がでてきていません。

紫式部はムカゴ苗と同じ状態です。

鉢から掘り上げて、ジベレリン処理後60型カラーポットカバーに植替えました。

ムカゴ苗にはほとんど(全く)効果はありませんでした。

 

ムカゴ苗 ( N.St.Louis Gold )
NO.41424344
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After

N.St.Louis Gold ジベレリン処理 after after
内容

N.St.Louis Gold

アメリカから個人輸入したN.St.Louis Goldですが、今年休眠から目覚めなかったため絶やしてしまったと諦めていたところ、 一芽だけ発芽していたのをバルブから分離し、ジベレリン処理をしてみました。

60型カラーポットカバーに寒水石を入れて株を植え込みました。(寒水石は株が浮き上がらないよう重しを兼ねています。)

ムカゴ苗にはほとんど(全く)効果はありませんでした。

 

ムカゴ苗 ( N.Queen of Siam,N.Foxfire,紫式部,N.Kits Golden Cup 他 )
NO.45464748
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ムカゴ苗 ジベレリン処理 浮葉の成長 開花
内容

N.Queen of Siam ムカゴ種

N.Foxfire

紫式部 ムカゴ種

N.Kits Golden Cup


らんちゅう水槽の休眠モード株です。全て水中葉だけで浮葉がありません。

らんちゅう水槽に浮いていたムカゴです。品種不明ですが、たぶん紫式部かN.Rubyと思われます。

鉢から掘り上げた株とムカゴ苗をジベレリン50ppm溶液に30分浸漬しました。

ムカゴ苗は60型カラーポットカバーに植え付けました。

NO.49505152
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After

開花 after after after
内容

堀り上げた4品種も60型カラーポットカバーに植え付けました。

ムカゴ苗にはほとんど(全く)効果はありませんでした。