2005年
私の熱帯スイレンとの付き合いは2005年に栽培した7品種から始まりました。
どれも気に入って購入したのですが(購入費用は結構かかりました。)残念ながらその時の品種で今残っているのはキング・オブ・サイアムただ1種類だけです。
なぜなら、最初の年の越冬に失敗してしまったからです。
屋内には取り込んではいましたが、あまり知識も無く部屋内にバケツを置く場所が無い為、倉庫や離れといった日頃人がいないところに置いていたので何度かの寒波襲来で、
水温が相当下がった(5度以下)からでしょうか、とうとう休眠から目覚めることなく★になってしまいました。
その当時は、越冬についての知識がまったく乏しく、部屋内なら大丈夫だろうと単純に考えていました。
当時、居間などに鉢が入った水バケツを持ち込むことなど家内の許可なしにはできませんでした。 しかたなしに離れに取り込んだのですが、近年暖冬ぎみとはいえ、
シーズン中何度かの寒波がやってきて日ごろ使ってない場所だったので寒さに耐えられなかったようです。そんな苦い経験から、翌年からは温調器とヒーターで12℃以下にならないよう加温管理をするようになりました。
3年目からは品種も増えましたので90cmのらんちゅう水槽を購入して全てまとめて加温管理しています。(たしかにこれなら暖房の無い離れでも安心です。)
しかし、加温管理していても目覚めないものもあります。
これまでの経験から越冬失敗の要因について少し考えてみました。越冬失敗したときの株の主な症状は下記の通りです。
@、休眠から目覚めない。
A、カビなどの雑菌に感染してバルブが腐る。
@のケースでは、熱帯スイレンですから当然寒さには弱く、寒くなると葉を落として暖かくなるまで休眠をします。
熱帯スイレンが安定して休眠する水温は10℃〜12℃と言われています。また、5℃以下にならないように注意するようにうたっている生産者のサイトもあります。
熱帯スイレンはあまりにも低い水温になると休眠が一層深くなり、暖かくなった刺激だけでは休眠打破ができなくなるものがあるようで、NETの掲示板でも2年間休眠した株が動き出したといった報告が時々あります。
水温管理のこつは水温を5度以下にならないようにすることです。また、反対に高すぎると休眠せず成長もできない状態になって株が弱ってしまうと言われていますがこの説に私は少し疑問符を持っています。
冬越し(休眠)は本来植物が持っている種を維持させる為の防衛システムです。干ばつや山火事、洪水といった成長に適さない環境になったとき適する環境になるまで休眠することによって悪い環境をのりきるのです。
それが1年なんか2年なのかはわかりませんが植物に適した環境になれば自然と成長をはじめます。
加温管理する場合、12℃〜-14℃になるよう設定すると良いといわれていますが、市販の観賞魚用温度コントローラーは最低温度が15℃までしかなく12℃〜-14℃に設定することができません。
そこでうちでは、産業用の温調器で温度コントローラーを作って越冬管理しています。(11℃になるとヒーターをONにして14℃でOFFにします。
設定に温度幅があるのは12℃に固定するとON-OFFを繰り返して1日中機器が作動して機器の寿命が下がるのと「かちゃかちゃ」と耳障りだからです。)
Aの雑菌(カビ等)の感染症が原因のケースでよく見られるのは、越冬している鉢の用土表面(バルブの周り)が黒っぽくなってしまうことがあります。
よく見ると、バルブ本体の成長点は白っぽく膜を張ったようになり周辺部は黒いすすのような物が覆っています。
これは私の推測ですがバルブにカビなどが生えて根や薄皮を腐らせて、その残滓が用土の上に落ちて黒く煤けたようになっているのだと思います。
特にバルブが土から飛び出して露出している株にこの症状が出ているようですので、鉢のまま屋内にと取り込んで越冬させる場合はバルブの上に土を被せたりすれば感染予防になるのではないでしょうか。
以前の越冬法といえば、バケツなどに鉢ごと入れて屋内に取り込むことでしたが、最近は色々な越冬方法が試されてきています。熱帯スイレンの冬越しは、適切な温度で感染予防をすれば決して難しいものではないのです。
しかしながら、それが分かっていても目覚めないことも多く、栽培を始めて数年たちますが今でも一番確実な越冬方法は何か、試行錯誤をしているところです。
そこで、越冬法について少し整理をしてみます。
図のように、現在、越冬法は大きく分けると「バルブを掘り上げる」か「バルブを掘りあげないか」に大別され、さらに、「水容器が必要」か、「水容器が不要」かに分けられ、
水容器が必要な場合は、「加温する」か「加温しない」かに分けられます。
本などに書かれている一般的な越冬法はA番の鉢ごとバケツ等に入れて屋内に取り込む「無加温式屋内越冬法(鉢)です。
栽培品種が少なく、取り込む場所があればこの方法が一番簡単です。
また、2012年現在の主流はE番のスティールウール密閉式越冬法と泥団子式越冬法です。
Berry's Water Gardenではこれまでに色々な越冬法を試してきました。これまでの経験では「泥団子式越冬法」と「スチールウール密閉式越冬法」は成功率も高くお勧めの越冬法です。
両方式とも鉢からバルブを掘り出して低酸素状態にすることで雑菌の繁殖をおさえ、バルブが感染症にかからないように予防しています。
また、クーラーボックスや発泡スティロールの容器に入れることで温度変化が少ない安定した越冬環境を作ることができます。
泥団子式越冬法はバルブを鉢から掘り出して消毒し泥で包んでビニールで密封してそのままクーラーボックス等に入れて部屋内で越冬させる方式です。
スチールウール密閉式越冬法は用土から掘り出して消毒したバルブをスチールウールと一緒にジャムを入れるガラス瓶に入れて密封しクーラーボックス等に入れて部屋内で越冬させます。
泥団子式越冬法は赤玉土の泥団子にバルブを埋め込んで酸素を遮断して低酸素状態を作りだし、スチールウール密閉式越冬法は水中の酸素がスチールウールと反応して錆びることで人工的に低酸素状態を作り出してカビなどの雑菌の繁殖をおさえ感染を防止します。
2008年
Berry's Water Gardenでは2008年度の越冬で初めてスチールウール密閉式と泥団子式を採用したところ、保管場所がリビングだったこともあり、
著しい気温の低下も無く安定した温度環境を維持できたのが良かったのでしょうか、ほぼ100%近い成功率でした。
その後栽培する品種が増えたのと手間がかからないことから2012年までの3年間はスチールウール方式メインに切り替えてやってきました。
この越冬法の最大のメリットはスペースが少なくてすむ事です。うちでは現在70種近い熱帯スイレンを栽培しています。
それらを全て鉢のまま越冬させるスペースは我が家には残念ながらありません。
泥団子のビニールやガラス瓶なら積み重ねることもできますので、保管容器が小さくて済むのも大きなメリットです。
初年度に越冬の成功率が高かったので、スティールウール密閉式に全幅の信頼を置いて越冬させてきました。しかしながら、このスティールウール密閉式にもいくつか問題点はあることがわかってきました。
数が少ないと越冬ビンのチェックも苦になりませんが、数が多いと頻繁にするわけにもいかず、1ヶ月に1度程度の確認になってしまいます。
順調に越冬できていれば良いのですが、中にはダメになるバルブも出てきます。そうすると、瓶の中で腐ってしまい用水にガスが発生して内圧が上がってしまうのです。
その圧力は相当なもので瓶の蓋が圧力で膨らむぐらいです。そうなる前に時々蓋を開けて圧力を逃がさなければなりません。
その作業が間に合わないと蓋が膨らんだり、蓋の隙間から水が漏れ出して発泡スティロールの箱の中に水がたまってしまいます。圧力が高くなりすぎて越冬BOXの中でガラス瓶が割れてしまったこともありました。
瓶を割るほどの圧力がバルブにかかるとどのような影響があるのか専門家ではないので分りかねますが、少なくても良い影響でないことは予想できます。
これが原因かはわかりませんが1瓶全滅ということも何度か経験しています。
その他にも低酸素にするため、スチールウールを使っていますが密閉瓶の内部ではスチールウールが水に溶け出して溶解酸素と結びついて酸化鉄となり水中に沈殿しますが、
それが空気に触れると赤褐色のさび色になります。
瓶の水を服などに付着させると錆色のしみができてしまいます。ガラス瓶にも錆が付着し越冬で使った後はすぐに洗浄しなくてはなりません。当初は簡単に考えていましたが、
越冬品種が増えると洗浄だけでもけっこう手間がかかります。
そうした中、近年水に浸けない乾燥式やフェルト式越冬法といったこれまでリスクが高いと思われていた越冬法を実践される愛好者の方も現れるようになりました。
実は、前々から水を使わない方式で越冬率が高い方法が無いかと考えていました。乾燥式は宮川花園さんところでも紹介されていますが、バルブを乾燥させて1個ずつジップロックに入れるというものです。
バルブを乾燥させて本当に大丈夫なのかというところに大きな不安があったのと、うちのように数が多いと結構手間がかかることもあり、これまで採用は控えてきました。
また、フェルト式越冬法についてもスティールウール密閉式に比べ優れているとは思えなかったのでこれまで実践することはしませんでした。
2012年
2012年の冬、Berry's Water Gardenでは定番のスチールウール密閉式、加温式屋内越冬法(鉢)、加温式屋内越冬法(バルブ)に加えて「真空乾燥式」、「バーミュキュライト埋設式」、
そして前から試したいと思っていた「鉢そのまま屋内越冬法」の計6つの方式での越冬実験を行いました。
従来の方法は越冬に水を使いますが、新たに試す3方式は水は不要です。越冬に水が必要なくなれば場所の制約が無くなり地震で水鉢が倒れたりして漏水事故になるということも防ぐことができます。
新しい3つの越冬法ですが、結果は思いがけないものとなりました。真空乾燥式の成功率は50%ほどしかなく、当初もっと成功率が高いのではと期待していましたが残念な結果になりました。
成功率が低かった原因ですが、小さなバルブは乾燥に耐えられなかったようで、ほとんどがからからに乾燥してダメになっていました。
「鉢そのまま屋内越冬法」は水バケツが必要ないので保管場所を選びません。バルブを堀り上げないので休眠が浅くても根を痛める危険性が少なく安定した越冬が行えるようです。
栽培する品種が少ない人や初心者の方にはお勧めの方式です。
今回一番の収穫は、「カビで失敗する可能性が大きい。」と言われてこれまで怖くて試していなかったバーミュキュライト埋設式越冬法が思いのほか成功率が高く、実験体20セット中バルブが腐ったのは1検体の1個だけでした。
心配したカビですが2検体のタッパーでアオカビの発生が認められましたが、バーミュキュライトの表面にひび割れが見受けられそれに沿って青カビが発生していました。
カビは表面だけで内部の発生は認められませんでした。湿らせたバーミュキュライトは完全にバルブを包んで空気との接触を防いでいました。
また、他の越冬法に比べ、私が一番驚いたのは新芽が伸びているものも多く、その全てが太く立派な芽だったことです。
他の越冬法では針先のような細い芽が出ていることが多いのですがこの越冬法では太く立派な新芽が出るようです。この新芽なら堀り出して直ぐにでも植付可能です。
今回保存容器には小型のタッパーを使いました。浅型を使ったので深さが足りず、バルブを横倒しで埋め込んだ為、新芽は横倒しで成長してしまいました。
次からはもう少し深さがあるBOXでバルブを立てて埋設すれば上に伸びてくれることでしょう。
これまで、食わず嫌いというわけではありませんが、バーミュキュライト埋設式越冬法に関する情報が少なく、カビ感染で失敗する可能性があるというだけでこの方式を試すことを避けてきました。
こん回、自分で実験してみて完全な思い込みだったことがわかりました。確かに2個のタッパーで青カビが発生しましたが空気に接している表面だけで内部には感染が及んでいませんでした。
1個は表面がひび割れてその割れ目に沿って青カビが発生していました、もうひとつにはひび割れは見つかりませんでしたが、バルブを埋め込む際に空気を抜くために手袋をした手でバーミュキュライトを押し込むのですが、
その際に有機物が付着していたのかもしれません。
現在判明している越冬失敗は、実験固体20セット(19品種 49個)中"N.Midnight Serenade"の1個だけで、バルブが軟化して腐っていましたがバルブ自体にはカビは認められませんでした。
(越冬失敗原因は不明)全てのバルブが目覚めたわけではないので最終的には確定していませんが、現状では越冬成功率は98%になります。
この越冬率は私にとっても大きな驚きでした。今回実験するにあたり、実験の主役は真空乾燥法だと考えていましたが、残念ながら真空乾燥法の方は期待した結果が得られませんでした。
しかしながら、瓢箪から駒とはこのことで、期待していなかったバーミュキュライト埋設式越冬法がこのような結果を残し、スティールウール密閉式越冬法に代わる有力な越冬法だということがわかりました。
カビ感染防止の為の殺菌(加熱処理等)手順の見直しや、バーミュキュライト表面やタッパーの蓋の裏をアルコール消毒するといった改善は必要ですが、
私が目指すところの「水を使わない」越冬法の完成に一歩近づくことができたと思っています。
これら3つの越冬法に共通する点は水を使わないということです。水に浸す必要がなければ漏水の危険性や越冬スペースの確保といった制約がなくなります。
熱帯睡蓮がメジャーにならない原因のひとつが越冬作業だと言われています。誰でも簡単に越冬させることができれば睡蓮の愛好者ももっと増えると思います。
そうなるよう、Berry's Water Gardenでは簡単で確実な越冬法をこれからも紹介していこうと考えています。
|